2011年7月12日火曜日

その12

(転載)

中国不動産バブルの解決策
2011年06月30日

商品住宅の主な需要は投資目的
 最近、知り合いの中国人女性が北京の西の外れに新築のマンションを買ったのですが、1平米あたり1万7000元(21万2500円相当、1元=12.5円)だったそうです。地下鉄こそ開通していますが、市の中心から外れているので、北京の住宅価格としては相当安いほうでしょう。

 100平米のマンションなので、総額は170万元(2125万円相当)です。その知り合いの月収は高くて1万5000元(18万7500円相当)ですが、それでもマンション価格は月収の113か月分です。ただし、頭金を3割払えば、後はローンが組めます。ローン金利は6.8%ですが、食費が極端に安く、会社経費をいろいろ流用することができるので、生活費はあまり必要ありません。金利負担はたいしたことないそうです。ちなみに彼女は今年結婚する予定で、将来の旦那は個人事業を営んでいて、既にマンションを持っています。

 彼女がマンションを買った理由は、投資目的です。東北の田舎に両親がいるのですが、年間半分ぐらい北京に呼び寄せて住まわせるつもりだそうです。完全に値上がり益を期待した投資目的なのです。ちなみに、中国の民営企業は、完全な実力主義です。仕事ができさえすれば24~25才の女性でも、部長待遇で、給与も格段に高くなります。彼女のような人はもちろん少数派ですが、しかし、どこの会社にも必ずいます。

 中国人の知り合いがいればよくお分かりだと思いますが、彼らはバブル以前の日本人以上に不動産に強い関心があります。1998年に住宅改革が始まり、国有企業が従業員に対して住宅供給を止めて以来、商品住宅市場が急速に拡大したのですが、その過程で、不動産投機で金持ちになった人々が続出しました。その結果、強烈な不動産神話がはびこることになり、金持ちになりたければ、まず不動産を買うことだと誰しもが思っています。

 2003年あたりから既に政府は不動産バブルを警戒し、断続的に厳しい価格抑制策を実施してきたのですが、不動産価格上昇は収まらず現在、一部の大都市圏では既に一般庶民の手の届かない価格になってしまいました。

 政府は2009年12月以降、断続的に非常に厳しい不動産価格抑制策を打ち出しました。それは、土地の売り手となる地方政府に対しても、資金の出し手となる銀行にも、開発の主体となる不動産業者にも、そして買い手である消費者にも、あらゆる角度から規制をかけて、価格を引き下げようとしています。もはや厳しい規制でがんじがらめとなっており、とても自由な市場とは言えない状態となりました。それで現在、ようやく、価格上昇が止まった状態です。

 住宅価格が上がって困ることは何でしょうか。お金を稼ぐ能力の乏しい弱者たちが、いつまでたってもバラックのようなところにしか住めないということです。この弱者が不満を持ち、その数が増えれば社会は不安定化します。ならばどうすればいいでしょうか。

保障性住宅建設により住宅問題を解決
 その答えが保障性住宅の建設です。国家発展改革委員会、住宅・都市農村建設部は、今年の全人代開催の前後において、

(1)これから5年間に都市部の保障性住宅を3600万戸建設する、
(2)今年、来年は1000万戸、その後3年で1600万戸を建設する、
(3)保障性住宅の占有率を20%に引き上げる、
といった方針を明らかにしています。

 保障性住宅というのは、簡単に言えば、政府が開発資金の一部を出したり、債務保証をしたりして、建設される住宅のことです。政府が住宅建設に直接関与することで、弱者に対して住宅を供給し、住宅問題を解決しようといった政策です。これには分譲住宅もありますが、資金が足らず買えない人のために賃貸住宅も建設されます。

 もちろん、これまでも、保障性住宅は存在しました。2008年11月に実施された4兆元の内需刺激策では、その一部が正にこの保障性住宅建設の加速に充てられました。今回の政策では、昨年は590万戸建設しているのですが、今後それを更に加速させるという内容です。

不動産市場は国家管理すべき?
 不動産市場は完全に自由化すべきではありません。アメリカや日本の不動産バブルの顛末をみれば明らかです。中国でも現状で、これだけバブルが膨らんでいるのです。国家が“市場の失敗”を修正する必要があるのです。政府の発想はおよそこんなところだろうと思います。

 中国の商品住宅バブルは崩壊したら大変だとみなさん思われるかもしれません。しかし、不動産神話の崩壊には時間がかかります。また、中国人民銀行は商業銀行に対して、昨年から厳しいストレステストを実施しています。彼らの判断は“まだ大丈夫、だが、ここで止めるべきだ”ということです。だから、全面的な抑制政策が出ているのです。

 リスクについても、当局はしっかりとコントロールしています。我々が思う以上に当局は不動産バブルの怖さを知っているし、外からは窺い知れない中国の現状を熟知しています。どこまでも“賢くて抜け目がない”。それが“中国”です。

(2011.6.29記)

TS・チャイナ・リサーチ代表 田代 尚機
提供:株式会社イマジネーション

0 件のコメント:

コメントを投稿