転載
インフレに不動産バブル
ダブルパンチに喘ぐ中国
2011年07月13日(Wed) 石 平
2011年7月9日、中国国家統計局は、6月の消費者物価指数(CPI)が前年同月に比べ6.4%上昇したと発表した。伸び率は5月の5.5%を大幅に上回り、08年6月の7.1%以来、3年ぶりの高水準となった。中国経済は深刻なインフレにあることがよく分かる。
インフレの中で、食品価格の上昇率はとくに著しかった。6月の食品価格は全体で14.4%も上昇し、豚肉の価格上昇率はなんと57.1%という驚異的な数値であった。
ギリギリの線で生活している数億人単位の貧困層が存在している中で、食品を中心とした物価の大幅な上昇は実に深刻な社会問題でもある。インフレの進行がそのまま続けば、いずれ政権の維持を危うくするような社会的大混乱が起こりかねない。インフレの一つで、中国の経済と社会の両方は風雲急を告げる状況となっているのである。
インフレ退治に必死の中国政府
中国政府は当然、問題の深刻さをよく知っている。だからこそ、2011年に入ってから、中国政府は「消費者物価指数を4%以下に抑える」との目標を掲げて、インフレ抑制のための一連の金融措置を講じてきた。今年2月、4月、7月に3回にわたって政策金利を引き上げたほか、1月から6月までの半年間、「月1度」という前代未聞の高い頻度で預金準備率の引き上げを断行してきた。インフレ退治のために、中国政府は必死だったのである。
しかし、それほどの高密度の金融引き締め政策を断行したにもかかわらず、インフレが収まるような気配はまったくない。今年に入ってから消費者物価指数は上昇する一方で、6月には上述の6%台に上った。そういう意味では、少なくともこの時点において、「消費者物価指数を4%以下に抑える」という中国政府の政策目標はすでに失敗に終わったといえよう。
資金難、中小企業倒産ラッシュ……
その一方、今年から実施されている一連の金融引き締め策は深刻な副作用を引き起こしている。金融引き締めの中で各金融機関の融資枠が大幅に縮小された結果、多くの中小企業が銀行から融資をもらえずにして大変な経営難に陥っているのである。6月の中国経済関係各紙を開くと、「資金難、中小企業倒産ラッシュが始まる」、「長江デルタ、中小企業生存の危機」、「温州地域、中小が2割生産停止」などのタイトルが踊っているのが目につく。金融引き締め策実施の結果、国内総生産の6割を支える中小企業が苦境に立たされていることがよく分かる。
中国経済の減速はもはや避けられないであろうが、実際、今年6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は3カ月連続で前月の水準を下回り、2年4カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。その中で、経済の減速に対する懸念が中国国内でも広がっている。6月27日、中国人民銀行(中央銀行)金融政策委員会の李稲葵委員は外国メディアからの取材の中で「減速の懸念」を表明しているし、経済学界の大御所で北京大学教授の励以寧氏は同日、金融引き締め策がそのまま継続していけば、中国経済は「インフレ率が上昇しながらの成長率の減速」に直面することになるだろうとの警告を発している。
それらの懸念や警告はまったく正しい。このままいけば中国経済は確実に落ちていくであろう。しかしだからといって、政府は現在の金融引き締め策を打ち切ることもできない。引き締めの手綱を緩めれば、インフレがよりいっそうの猛威を振るってくるに違いない。政府の抱えるジレンマは深まるばかりである。
売れ残り始めた不動産
こうした中で、6月の北京市内の不動産物件の成約件数が29カ月以来の最低水準に落ち込むなど、この年の春から始まった不動産市場の冷え込みが進んでいる。それもまた、政府による金融引き締め政策のもたらした結果の一つであるが、市場が冷え込むと不動産物件の在庫は当然増えてくる。たとえば首都・北京の場合、「21世紀経済報道」という経済専門紙が6月30日に報じたところによると、2011年6月現在、北京市内で売れ残りの不動産在庫面積はすでに3300万平方メートル以上に達しており、時価では約1兆元(日本円にして124兆円相当)にも上っているという。そして、今までの平均的販売率からすれば、北京の不動産在庫を消化するには今後1年半以上もかかるとされている。
在庫の大量発生はもちろん北京だけの問題ではない。先述の新聞記事によれば、たとえば武漢と杭州は両方とも2年間の販売分の在庫を抱えており、深セン、広州、上海もそれぞれ、9カ月分、8カ月分、7カ月分の在庫があるという。
不動産価格の総崩れが始まる
売れ残りの在庫をそれほど抱えてしまうと、不動産業者の資金繰りが大変苦しくなるのは当然である。市場の停滞がそのまま継続していけば、いずれかの時点で、業者は生き残りを計って資金の回収を急ぐためには、手持ちの在庫物件を値下げして売りさばくしかない。しかしそれに伴って、投機用に不動産を購入している人々の多くがいっせいに売りに動くに違い。そうなれば、不動産価格の総崩れはどこかで始まるのである。最近、社会科学院工業経済研究所の曹建海研究員という人物の口から、「2012年に北京の不動産価格が5割も暴落するだろう」との不気味な予言がなされているのもけっして根拠のないことではない。不動産バブル崩壊の足音がいよいよ聞こえてきているのである。
問題は、これからどうなるのかであるが、今のところまず言えるのは、中国を襲ってきているインフレの大波はそう簡単に収まらないことである。中国の経済問題を取り扱った私の以前のコラムでも指摘しているように、中国のインフレはそもそも、過去数十年間にわたる貨幣の過剰供給の必然の結果であるから、短期間の金融引き締め策の一つや二つでは収まるような性格の問題でもない。6月の消費者物価指数は5月のそれよりも大幅に上昇していることは前述の通りであるが、「7月のインフレ率は6月よりもさらに高くなる」との予測も最近、中国農業銀行から出されている。前出の人民銀行貨幣政策委員会の李稲葵委員に至っては、向こう10年間、慢性的なインフレが問題であり続けるとの暗澹たる見通しを示している。
中国経済の「硬着陸」が現実に
そうなると、中国政府がインフレ抑制のために実施している金融引き締め政策は予想できる近未来において変更されるようなことは、まずないだろう。実際、中国人民銀行は7月4日、中国経済については「インフレ圧力は依然として高い」との認識を示し、引き続き金融政策運営の軸足を物価抑制に置く方針を強調しているし、中国の温家宝首相も7月9~10日に陝西省の西安などを視察した時、経済政策運営の基本方針について「物価水準の安定を主要な任務とし(現在の)マクロ調整を堅持するという方向は変わらない」と語り、インフレ抑制に軸足を置いた金融引き締めを続ける考えを示している。
要するに中国政府は今後も金融引き締め政策を継続していくことになるのだが、しかしその結果、景気の後退とそれに伴う経済の減速はもはや避けられない。そしてさらに深刻なことに、去年までの量的緩和によって膨らんできた史上最大の不動産バブルが、まさに今後の金融引き締めのなかで「崩壊」という宿命の結末を迎えることになるに違いない。
国際社会の一部で囁かれ始めている中国経済のハードランディング(中国語では「硬着陸」)はいよいよ、目の前の現実となりつつあるのである。
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評:まさに前門のインフレに、後門のバブル崩壊といったところだろうか
そういえば、日清戦争が起きた時点では中国は「眠れる虎」と呼ばれていて
だれも中国が小国の日本に負けるなんて思っていなかったんだっけなぁ
結局官僚制度の腐敗が主原因で日本に負けたと記憶している。
あの時から比べると日本は追われる立場になっているけれど、
腐敗と言われるほど日本の公務員は堕落しておらず
(というか一部官僚を除けば国民に責められる立場で青息吐息)
国の経済状況、財政は中国に比べはるかに健全である
(ま、財務省とマスコミが破綻破綻と煽っちゃいるけれど・・・)
話は脱線したけれど、再び「張子の虎」であることを証明してしまうのかな。
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